労働判例〜賃金や賞与、退職金

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建築請負契約に係る歩合給は、契約の成立段階で、全額の請求権が生じるのか?

労働判例

建築請負契約に係る歩合給に対する労務は、契約の斡旋・成約・建物の完成・引渡し代金受領まで継続し、中途退職時には、それまでの労務の全労務に占める割合により請求権が生ずるとされた事例
(平成4.2.26 大阪地裁判決 A住宅事件)

 

判決の要点

歩合給請求権の発生

1.建築請負契約を斡旋したことによる歩合給(請負型歩合給)の場合は、その具体額は被告会社が請負代金の全額を受領し、収益が確定しない限り決定されないこと(当事者間に争いがない)、契約の成立から建物の完成、引渡しまでに数ケ月を要し、設計変更・追加工事も稀でなく、その間、被告会社の営業社員は、元請責任者として注文主の意思を工事業者に伝達し、建築確認等の役所関係の処理、工事の近隣対策、引渡しの立会い等の業務を行っていたと認められることから、歩合給の対価たる労務とは、請負契約の成立を斡旋することに止まらず、建物の完成・引渡しと請負代金の受領まで継続するものとして予定されていたと認めるのが相当である。

 

従って、請負契約の成立を斡旋することのみが対価たる労務であるとの原告の主張は採用できない。

 

2.被告会社は、請負型歩合給の対価たる労務が1で説示したものであることを理由に、歩合給は原告が労務を完遂し、その結果、被告会社が現実に収益を得るまで発生しないという。

 

しかし、歩合給は請負契約に基づく報酬ではなく、雇用契約に基づき労務の対価として発生する賃金であること、公平の観点から考えても、使用者は、ある従業員が労務提供の途中で退社した後も、他の従業員に続行させて退社した従業員の労務の成果を利用し得ると考えられ、殊に本件では、原告は、被告会社の収益の元となる請負契約の締結自体は自らの手で完成していたのであり、被告会社は原告の退社までの労務を現実の成果として利用できたのに反し、原告は、平成元年6月分からは歩合給のみで外に固定給等は一切支給されないことになっていたから、退社時に歩合給が全く発生していないとの解釈を取ると、上述提供済の労務の対価を全く得られない結果となることからすると、歩合給は、当事者間に特別な合意がない限り、原則として、顧客を発見することから始まり、請負代金を受領することにより完成する従業員の労務提供の都度、使用者が歩合給の基礎となる収益を得なかったことを解除条件として、発生しているものと解するのが相当である。

 

したがって、本件においては、原告の歩合給請求権は、原告が退社する時点で、原告が退社までに提供した労務が、被告会社の収益が確定(請負代金の受領)するまでに費やされた全労務中に占める割合に応じて既に発生していたものというべきである。

 

3.なお、被告会社の前記主張については、歩合給が賃金中に僅かに占める割合であるならともかく、原告が受ける賃金が歩合給のみであることからすると、本件契約を成立させる上で費やした労務に対する対価が平成元年6月分給与として支払われたとはいえないことから、採用できない。

 

歩合給請求権の割合

被告代表者本人によると、原告の退社後、その上司が行った業務としては、設計事務所との施工図面等の打合せ、注文主と施工業者との打合せの仲介、工事に伴う近隣対策等、登記関係の処理、引渡への立会い、注文主の建築資金確保の手助け等であったことが認められる。

 

しかし、上述業務はいずれも本件契約の成立に伴う付随的業務に過ぎず、中には当初から原告の労務のみで賄われることが予定されていないものも合まれていること等の事情を判断すると、原告が本訴で請求できる歩合給の割合は70%であるものと認めるのが相当である。

 

歩合給額について

弁論の全趣旨によると、本件1契約についての歩合給は45万円と、本件2契約についての歩合給は54万円と決定していたことが認められる。

 

とすると、原告が全ての労務を完遂した後に受け取ることが予定されていた歩合給の総額は99万円であったと認められ、したがって、原告が本訴で請求し得る歩合給の総額は、99万円の70%に当たる69万3,000円となる。


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