労働判例〜賃金や賞与、退職金

スポンサードリンク



固定給比率が高い賃金体系では、歩合給の支給日在籍要件は有効と認められるのか?

労働判例

建築営業社員の歩合給(建物代金の0.8%)を着工時に0.4%、完工時に0.4%を支給する旨の在籍要件が、固定給依存度が高く、完工時までに種々の業務がある等により有効とされた事例
(平成12.3.17 東京地裁判決 MDI事件)

 

判決の要点

雇用条件

原告の賃金は、固定給プラス歩合給とされ、そのうち固定給部分は、基本給、調整給、皆勤手当、時間外・休日労働手当等で構成され、原告の各月の固定給部分の支給総額は次のとおりであった。
(抽記)
平成9年12月分:16万1,500円
平成10年1月分:22万2,050円
平成10年4月分:23万1,780円
平成10年5月分:22万2,580円

 

また、歩合給は、営業活動により建築工事請負契約締結に至った場合、建物代金の0.8%で、その支給時期は、建築着工時に50%以上の入金があった場合には0.4%、完工時に100%の入金があった場合には残りの0.4%というものであった。

 

支給日在籍要件の有効性の考え方

原告は、支給日在籍要件は、公序良俗に反し無効であると主張する。

 

そこで、検討するに、歩合給支給についての支給日在籍要件といっても、一律にその効力が決せられるものではなく、歩合給の性質、支給要件、給与に占める割合、支給日在籍要件を設けた理由等、当該歩合給に関する規定について、具体的かつ総合的に検討を加えた上、各事例毎に判断するのが、相当であり、以下にこれを前提として本件について検討する。

 

歩合給の対価である労務の内容

本件のような建築請負契約の斡旋による歩合給の場合は、顧客の発見・契約成立・建物完成・引渡しまで平均10ヶ月を要し、その間被告会社の営業社員は設計変更、追加工事に伴う契約変更のほか種々の業務を行っていたことからすると、歩合給の対価たる労務とは、契約成立の斡旋に止まらず、完成・引渡しと請負代金の受領まで継続するものとして予定され、そのことからすると、建築請負契約の締結を原因として歩合給が発生する旨の原告の主張は採用できない。

 

歩合給の賃金としての性格

1.歩合給は雇用契約に基づき発生するものであって、労務提供の対価としての性質を否定できず、また、ある従業員が労務提供の途中で退社し、以後の労務提供が不可能になっても、他の従業員にこれを続行させることにより退社従業員の労務提供の成果を利用し得る面がある。

 

これからすれば、労務の提供に応じて歩合給が発生するものと考える余地もないではない。

 

歩合給の支給時期を入金を前提に、着工時と完工時に分けているのも顧客からの入金が段階的に行われるという状況を前提にしているとしても、上述のような営業社員の労務提供及び歩合給の性質を反映している面があるということができる。

 

3.営業社員の行うべき業務が多岐・一連のものであるから、個々の業務を取り出してその都度労務提供の対価を算定することは煩雑困難であり、約2,700名の多数の社員を擁する被告会社においては、多数の従業員に定型的な処理をするために、営業社員の労務提供を着工時までと、それ以後に分けて歩合給の発生時期を定めることも合理性がないとはいえない。

 

4.そして、被告会社の給与をみると、20代前半で入社1年前後の原告の月額給与のうち22万円ないし23万円程度が固定給部分であり、また、例えば、25歳、大卒、主任、宅建資格者であれば月額給与のうち固定給は30万6,000円余であり、給与に占める固定給部分は必ずしも少なくなく、歩合給が基本的には労務提供の対価であるとしても、結果に対する報酬としての面も少なからず有している。

 

支給日在籍要件を設けた理由

被告会社が支給日在籍要件を設けた根拠は、営業社員には、契約締結に止まらず、入金、着工、あるいは完工までに行うべき種々の業務があり、その遂行の確保のためであると解され、このことは営業社員の業務実態に照らせば、合理性がないとはいえない。

 

さらに、多数の社員に対し、煩雑を避けるため一括的な処理をする必要もあるということができる。

 

支給日在籍要件設定の有効性・・・まとめ

1.被告会社では、営業社員の労務提供の実態に照らし、一定程度にせよ労務の提供に応じて歩合給を支給することとしている。

 

すなわち、全額入金時に歩合給が支給されるのとは異なり、着工時までに50%以上の入金があれば、それ以後、完工時以前に退職した場合であっても、着工時までの労務提供に対しては歩合給が支給されるという意味において、公平の観点からも不相当とまではいえない。

 

2.歩合給が固定給の額からみて、結果に対する報酬としての面を少なからず有しており、支給日在籍要件を設定した根拠にしても合理性がないとはいえない。

 

加えて、支給日在籍要件が歩合給細則に明記され、その支給時期以前に退職した場合、歩合給を受給できないことが予想できたことからすれば、本件においては、支給日在籍要件も公序良俗違反とまではいえないというべきである。

 

3.また、原告は、ほぼ全面的に上司のI課長の指導と補助の下に業務を行ったことや、契約については着工前に建築請負契約の内容が変更されたことからすれば、原告に支給日在籍要件を適用しても、それが原告に著しく不利益になるとはいえず、その適用について公序良俗に反するということはできない。


スポンサードリンク