労働判例〜賃金や賞与、退職金

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営業制度の変更に伴う各種手当の減額は、変更に同意しない者に対しても効力を生じるのか?

労働判例

不利益の程度、変更の必要性、変更内容の合理性を総合勘案すると、不利益受忍を許容すべき高度の必要性に基づいた合理的な内容であり、労働者は不同意を理由に適用を拒めないとされた事例
(平成7.5.17 東京地裁判決 Y生命保険事件)

 

判決の要点

事件の概要

1.被告会社は、市場開拓及び顧客管理の確立を企図し、重点的に管理すべき市場、顧客、担当者を明確化し、シェア拡大を目的に、全営業職員について昭和61年10月以降、市場開発・顧客管理制度(SSエリア制度)を実施し、これに伴って営業職員関係の給与その他諸規定の制定・改廃等を行った。

 

2.原告は、旗ノ台営業所に勤務する営業職員であったが、SSエリア制度によって給与に不利益が生ずるとして反対し、62年3月20日本訴を提起した。

 

就業規則の不利益変更の効力に関する基本的な判例・・・要旨要約

賃金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関して不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、その不利益の程度を考慮しても、なお、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に効力を生ずるものというべきである(昭和43年12月25日最高裁大法廷判決 秋北バス事件、昭和63年2月16日最高裁第3小法廷判決 大曲市農協事件)。

 

本件における変更の有効性の考え方

本件についてみると、SSエリア制度は、被告会社において制定・変更され、社内労働組合を通じるなどして従業員に周知されたものと認められるが、当該制定・変更が原告にとって不利益なものであっても、合理的なものであれば原告は不同意を理由にその適用を拒み得ないと解される。

 

そして、その合理的か否かの判断に当たってば、変更の内容及び必要性の両面から検討すべきであり、変更により従業員の被る不利益の程度、当該変更との関連の下に行われた賃金等労働条件の改善状況のほか、労働組合との交渉の経緯、同業他社の取扱い等の諸事情を総合勘案する必要がある。

 

本件就業規則の不利益性
1.{集金関係給与}SSエリア制度を定めた就業規則の施行に伴い、次のような不利益がもたらされる。

(1)SSエリア制度下のエリア管理手当は、従前の保全手当と地区深耕手当を一本化したものであるが・・・大多数の営業職員にとって、エリア管理手当が従前の保全手当と地区深耕手当より減額となり、また、新営業職員制度下でのエリア開拓手当は、さらに減額となったことが推測される。

 

(2)集金手数料については、SSエリア制度下でも月払契約の実収保険料の3%が維持されていたが、新営業職員制度になると、エリア内1件200円等の件数建てに改められ、減額が推測される。

 

(3)預振変更手数料については、SSエリア制度下でも従前の支給基準が維持されたが、新営業職員制度になると、63年度募集契約は1契約200円と改められるなど、減額が推測される。

 

(4)調整手当については、従前の実収保険料の1%の支給がSSエリア制度下では制度移行時の既存契約についてのみ従前どおりの支給となり、減収がもたらされる。

 

ただし、SSエリア制度下では、従前の年3回の顧客訪問義務は免除され、また、新営業職員制度下では、63年度以前の募集契約についても、年間保険料の1%の銀振化促進経費助成がなされることとなった。

 

(5)原告についてみると、SSエリア制度実施前のエリア内集約率は37.4%で、全国平均よりも低かったところ、エリア管理手当等の支給状況は・・・さほど低下していないか、あるいは新営業職員制度下におけるエリア開拓手当の支給額については逆に増加している。

 

また、63年4月以降同年9月までの集金手数料は合計27万円余の減額、同年4月募集月以降同年10月募集月までのマル銀管理手当は合計8万円金の減収、61年10月募集月以降63年募集月までの預振変更手数料は合計26万円余となったことが認められる。

 

以上のとおり、SSエリア制度を内容とする各就業規則の制定・施行により、集金関係給与の減額という不利益がもたらされることは否定できないと考えられる。

 

2.{転管制度}SSエリア制度下における(自動)転管制度については、次のとおり、営業員に不利益をもたらすものではないということができる。

(「次のとおり」・・・略)

 

本件就業規則の合理性
1.{SSエリア制度の目的・趣旨}次のとおり、合理的なものであったということができる。

(1)いわゆる職域市場は成長市場と目されていたが、被告会社はこれらの市場で他社に比して劣勢であり、同市場でのシェアダウンは企業存亡に関わるものと受け止め、同市場での契約獲得に全力を挙げる必要があり、その施策として、自動転管制変により既契約のエリア内集約を行い、営業活動の効率化とセールス・サポートの充実による担当エリア内顧客に対する密接・継続的なサービス活動を行うSSエリア制度の実施が、急務かつ必要不可欠であった、ということができる。

 

(2)SSエリア制度は、従来の地区制度を発展させたものであるが、地区制度の下では、集全保全業務は新契約獲得につながるとの観点から、集金保全サービスに高水準の給与で報いてきたが、昭和48年以来、デビットの保有件数が漸減するなど、必ずしも顧客管理機能が発揮されていない状況にあって、「職域の開拓に重点を置いた地域市場の開発及び顧客管理体制の確立を期す」とのSSエリア制度の目的・趣旨は、それ自体として正鵠を射たものであったというべきである。

 

2.{SSエリア制度の内容}次のとおり、首肯することができるものであったということができる。

(1)市場開発・顧客管理制度取扱規定は、SSエリアの設定、担当者の配置、集金・管理扱契約の取扱い、ことにエリア外契約の転管の基準・方法、その他について詳細・明確に規定し、適切といえる。

 

(2)SSエリア制度下では、集金関係給与が切り下げとなるが、同給与は全給与の17%であって、キャッシュレス社会を反映した銀行振込契約増大の趨勢の中ではその評価が下げられるのもやむを得ない面があるといわざるを得ない。
むしろ、SSエリア制度では営業活動をエリア内に限定し、職域・地域できめ細かなサービス活動を行うことにより、より多くの契約を獲得し、固定的・比例的給与の増大も見込めるものということができる。

 

(3)証拠によれば、営業職員の販売効率は、一人当たりの件数において、昭和58年度2.72件であったのに、SSエリア実施後、昭和60年度2.76件、61年度2.85件、62年度2.92件と増加し、一人当たりの挙績も、58年度1,053万円であったのに、SSエリア制度実施後、60年度1,247万円、61年度1,297万円、62年度1,397万円と増嵩しており、その結果、営業職員給与の固定的・比例的給与が引き上げられたことが推認される。

 

(4)そして、昭和62年営業職員給与規定では、専業職員特別の初任本給が月額7万9,000円から8万2,000円に増額改訂され、さらに新営業職員制度(63年度)では特選職員の本給が月額16万円に大幅改訂され、集金関係給与の減少を補償する措置がとられており、原告の場合、新営業職員制度(63年就業規則)により、本給がそれまでの月額10万余円から17万金円に引き上げられた。

 

3.{労働組合との交渉の経過}次のとおり、SSエリア制度の導入に当たり、月労を始めとする関係組合の内部討議が尽くされたものということができる。

(「次のとおり」・・・略)

 

4.{同業他社との比較}被告会社が昭和59年7月に同業生命保険業を営む大手5社の地域市場戦略を調査した結果は、以下のとおりであることが認められる。

(「以下のとおり」・・・略)
この調査結果によれば、D生命を除く大手各社とも、それぞれ地区制度を中心とした経営戦略を練っているものということができ、被告会社においても、他社に遅れをとらないためには、SSエリア制度の実施による積極的な営業政策の展開が必要であったと認められる。

 

5.{SSエリア制度のその後の評価}Y労組は、SSエリア実施後約5年を経過した平成2年11月、SSエリア制度に関し、ヒアリング調査、全国オルグ調査における意見・要望をまとめ、提言した。

(「提言」・・・略)
また、被告会社の既契約者市場対策推進プロジェクト事務局は、平成3年8月、「既契約者市場対策について(基本方向・検討事項)」と題する書面で、次のとおり提言を行った。
(「提言」・・・略)

 

この事実によれば、SSエリア制度の実施後数年経過したが、同制度に真っ向から異議を唱える者はひとり原告のみであり、被告会社のほとんどの営業職員は同制度を定める就業規則の下で稼働しており、同制度は、被告会社において既に定着したというべきであって、Y労組や被告会社のSSエリア制度に関する提言も、同制度を積極的に評価しつつも実践経験に基づき同制度をさらに改善・発展させようとするものであったと認めることができる。

 

本件就業規則の効力

以上、本件就業規則による原告の不利益の程度、本件就業規則の制定の必要性、その内容の合理性を総合勘案したところによれば、本件就業規則は、原告が受忍すべき高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということができ、原告においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒むことができないというべきである。


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