労働判例〜賃金や賞与、退職金

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合併により退職金の支給基準を統一するため、従前より低額な新規定を不同意の者にも適用できるのか?

労働判例

合併に伴う給与の増額、給与増額の賞与・退職金への反映、定年延長等の改善措置および7農協合併に件う職員相互間の格差是正、単一就業規則制定の必要性に照らし、不同意者にも適用できるとされた事例
(昭和63.2.16 最高裁第3小法廷判決 大曲市農業協同組合上告事件)

 

判決の要点

原審が確定した事実関係

1.旧花館農協の職員退職給与規程(花館規程)では、退職金額は、退職時の基本月俸額に勤続年数に応じた所定の支給倍率(旧規程支給倍率)を乗じて算定することになっていたが、被告組合は、昭和49年3月29日、その職員退職給与規程(新規程)を作成し、新たな退職金支給倍率により合併時に遡って適用した。

 

そして、新規程では、昭和44年3月31日当時の旧7農協在職職員には、新規程の支給倍率改定による不利益を軽減するための特例措置が設けられ、一般の場合より高額の支給倍率を適用することとした。

 

2.勤続年数15年以上の者の定年又は勧奨退職の場合の支給倍率について、旧花館規程と新規程の前記特例措置(特例措置)とを対比すると、勤続年数22年未満までは後者(新規程)の方が高いが、22年以上では後者の方が低くなり、しかも勤続年数が長くなるにつれて上昇率が逓減されている。

 

原告らはいずれも特例措置の適用を受けており、退職時において旧花館規程による支給倍率と特例措置による支給倍率とを対比すると、原告MRの場合は64から55.55に、同MKの場合は55から45.945に、同NHの場合は61から53.75にそれぞれ低減されている。

 

3.本件合併に際して、給与・退職金規程の統一、労働条件の格差是正が急務となり、特に、退職金規程については、当時の旧花館規程と他の旧6農協(既に新規程の内容とほぼ同一となっていた。)との調整・折衝が図られたが、合併期日までにその格差を是正することができなかった。

 

かつては旧7農協の規程はほぼ同一の内容であったが、昭和43年、44年に旧花館農協以外の旧6農協が、給与の公務員並み引上げと退職金支給倍率の適正化という観点から、秋田県農業協同組合中央会の指導・勧告に従って、給与規程と退職給与規程とを併せて改正したのに対し、旧花館農協のみが労働組合の反対などから給与規程のみを改正し、退職給与規程については変更しなかったことから、格差が生じていた。

 

4.本件合併に件う給与の格差是正措置の結果、原告MRについては合併時月額8万5,000円であった給与が3回の給与高差等により退職時には21万1,1001円に増額され、同MKについては退職時までに5回にわたって合計1万6,000円の給与調整が行われ、その結果、給与、賞与及び退職金の引上分が合計181万9,550円に達し、同NHについては退職時までに7回にわたり合計1万9,400円の給与調整が行われ、その結果、給与、賞与及び退職金の引上分が合計244万2,820円に達した。

 

5.本件合併に伴い被告組合が作成した諸規程によって、原告らは定休日、特別休暇、扶養手当、管理職手当、職務手当、技能手当、慶弔見舞金、出張の旅費・手当の面で、旧花館農協在職中より有利な取扱いとなった。

 

6.旧花館農協の定年は男子57年、女子45年と定められていたため、原告MR及び同MKが1年間、同NHが3年間それぞれ延長された。

 

仙台高裁秋田支部の判決

原告ら旧花館農協職員にとって、新規程への変更による不利益は特例措置によっても極めて大であるのに対し、本件合併に伴う給与の特別調整等の是正措置は、その不利益に対する見返りないし代償としてなされたものではなく、その他の労働条件の改善も、旧花館農協職員につき格別有利になされたものとはいえないから、被告農協が労働条件の統一的画一的処理の要請から、新規程への変更を実施したこと及び原告らが本件合併に伴い前記の各利益を得ていることを考慮に入れても、新規程への変更に合理性があるとはいえず、本件変更は原告らに対し効力を生ずるものではないと判断し、原告らの請求を認容した。

 

就業規則不利益変更の有効性の判断基準

1.原審の判断は是認することができない。
その理由は、以下のとおりである。
当裁判所は、昭和43年12月25日大法廷判決において、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者がこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。

 

この判断は現在も維持すべきものであり、ここにいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認し得る、合理性を有するものであることをいうと解される。

 

2.特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ばす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるというべきである。

 

本件新退職金規程への変更の有効性

1.これを本件についてみると、新規程への変更によって原告らの退職金の支給倍率自体は低減されているものの、反面、原告らの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際延長された定年退職時までに通常の昇鉛分を超えて相当程度増額されているから、実際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価し得る不利益は、本訴における原告らの前記請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によって原告らが被った実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではない。

 

2.他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合件した場合に、労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもない。

 

本件合併に際しても、そのような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現できなかったのである。

 

特に本件の場合においては、退職金の支給倍率についての旧花館農協と他の旧6農協との間の格差は、従前旧花館農協のみが秋田県農業協同組合中央会の指導・勧告に従わなかったことによって生じたという経緯があるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の被告組合人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。

 

3.本件合併に伴って原告らに対する給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、概ね本訴における原告らの請求額程度に達しており、合併後原告らは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであって、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償ではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たって考慮することのできる事情である。

 

4.上述のような新規程への変更によって原告らが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによって原告らが被った不利益を考慮しても、なお被告組合の労使関係においてその法的規乾性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。

 

したがって、新規程への変更は原告らに対しても効力を生ずるものというべきである。


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