労働判例〜賃金や賞与、退職金

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就業規則の変更による、高年齢の従業員の役職離脱、専任職発令に伴う賃金減額は認められるのか?

労働判例

55歳以上の役職離脱、専任徴発令に件う大幅な賃金減額は、専ら高年齢層の行員に対する重大な不利益であり、経営上の必要性、多数労働組合の同意、代償措置を考慮しても合理性がないとされた事例
(平成12.9.7 最高裁第一小法廷判決 M銀行事件)
(平成14.2.12 仙台高裁差戻審判決 M銀行事件)

 

 

 

判決の要点

事件の概要
1.就業規則変更の概要

@第1段階(昭和61.5.1)
就業規則を変更し、満55歳に達した者を役職から外し、「専任職」に就かせ、基本給を凍結し、役職手当及び管理職手当を減額し、それに代えて「専任職手当」を新設支給する「専任職制度」を設けた。

 

A第2段階(昭和63.4.1)
新専任職制度を実施し、業績給及び賞与を段階的に減額し、5年後には業績給を50%減額し、専任職手当を廃止し、賞与の支給率を300%から200%に減額した。

 

2.下級審の判断

(1)原告労働者は、昭和61年及び63年に行われた就業規則等(就業規則・給与規程・役職制度運用規程)の変更は、同意しない労働者には効力を及ぼさないと主張し、
@専任職への辞令・専任職としての給与辞令に対する無効確認

 

A就業規則の変更を無効として算定した賃金の支払を受ける労働契約上の地位の確認

 

BAの賃金額から支払済の賃金額を控除した残額及びそれに対する遅延損害金の支払を求めた。

 

(2)下級審の判断
@青森地裁:就業規則の変更による専任職制度及び新専任職制度のうち、役職制度に関する部分の合理性を認容しつつも、業績給・賞与支給率の削減については合理性を否定した。

 

A仙台高裁:55歳以上の行員の給与の減額に、合理性の存在を認容した。

 

事実関係・経過の概要
1.会社の歴史

当該銀行は、昭和51年に、労働者数が約1,500人と約650人の地銀が合併し、○○県を中心に約100の支店を有しており、当該地方の地銀ではいわゆる中位行である。

 

2.労働組合の状況

昭和63年当時→
○○銀行労働組合・・・1,482名加入
○○銀行従業員組合・・・23名加入→第1審原告となる。

 

3.就業規則変更の経過

(1)第1次変更→
@昭和61.1.30
労働組合に「専任職制度の創設」を提案→4.28:応諾

 

A昭和61.2.3
従業員組合に「専任徴制度の創設」を提案→反対の立場を維持

 

B昭和61.5.1
就業規則の変更を実施

 

(2)第2次変更→
@昭和62.9.7
労働組合・従業員組合に対して、専任徴制度の改正を申し入れた。

 

Aその後、労働組合・従業員組合に対して修正提案を行い、

 

B昭和63.3.23
労働組合と合意に至るも、従業員組合は専任徴制度に対して反対し続けていた。

 

C昭和64.4.1
M銀行は、就業規則の変更(第2次)を実施した。

 

4.原告労働者の状況及び就業規則の変更による賃金への影響

(就業規則の変更がない場合の「得べかりし標準賃金額」と、変更後の「新賃金額」の例)
・元年3月〜4年3月=2,633万円(年平均856万円)→1,635万円(年平均530万円)▲38%

 

・4年4月〜6年2月=1,832万円(年平均956万円)→811万円(年平均423万円)▲56%

 

5.代償措置

@選択定年加募金支給乗数の引上げ
A特別融資制度の創設
B行員住宅融資制度の改善
C企業年金の引上げ・掛金の会社負担額の増額等

 

6.専任職発令後の職務の変化

 → 発令前後で同等の業務に従事し、際立った軽減はなかった。

 

7.専任職制度導入による人件費削減の効果は年度により異なるも、完全実施に至った平成4年度では年間約10億円に達するが、その間、中堅層の賃金が格段に改善され、人件費総額は増加した。

 

原審(仙台高裁)の判断

1.専任職・給与辞令の発令無効の請求については、訴えの特段の利益がなく、不適当である。

 

2.企業体質・高齢化等から、人件費の削減と賃金分配の偏在化の是正は、組織改革上不可避である。

 

3.軽易・定型的業務である専任職制度移行により、業績給の削減はやむを得ず、役職・管理職手当の不支給は当然である。

 

専任職階の業務に応じた賞与の見直しもやむを得ない。

 

これらの賃金減少は、いわば将来の期待的利益の喪失という不利益であり、専任職制度完全実施後の賃金水準(昭和62年基準)は年間405万円〜498万円であって、当該地方の地銀の55歳以上の行員の平均賃金や全産業の平均年収等に比して高水準である。

 

経過措置・代償措置を併せ考えると、賃金面での不利益が、社会的相当性を逸脱し不当なものであるとまではいえない。

 

4.本件組織改革は、多数の組合員を擁する労働組合の執行部を交えた委員会で長期間研究討議され、正式提案後、労働組合との合意に至ったものであるから、制度の内容には多数従業員の意向も反映されている。

 

5.したがって、専任職制度の創設により組織改革を行う高度の必要性があり、不利益の内容及び程度、代償措置、同業他行との比較、労働組合との合意等の諸事情を総合すると、本件変更は合理性を失わないものと認められる。

 

最高裁第一小法廷判決の判断

1.原審(上記仙台高裁)の判断の1・2は是認できるが、3以下は改の理由により是認できない。

 

(1)不利益変更に関する最高裁の考え方→賃金等については、高度の必要性と合理的内容が必要である。

 

(2)銀行は発足当時から60歳定年制→55歳以降も所定の賃金を得ることは期待に止まらず、労働条件の一部であり、就業規則変更は高度の必要性に基づく合理的な内容であるか、検討を要する。

 

(3)他行比較や高齢化等により、55歳以上の役職配置・賃金抑制等には、高度の必要性がある。

 

(4)55歳到達を理由に、管理・監督職階から専任職への発令は、これに伴う賃金の減額を除けば、対象となる行員に格別の不利益を与えず、職階及び役職制度の変更は、合理性を認めることができる。

 

(5)賃金・賞与の大幅な減額、特に平成4年度以降の減額幅は、得べかりし標準賃金に比して概ね40数%から50数%程度に達し、考課等による格差を超え、相当部分が変更によるものと認められる。

 

(6)労働の軽減は現実には行われず、代償措置も賃金減額を補うものではなく、本件就業規則の第1次・第2改変更による賃金面の不利益は極めて重大であり、就業規則変更による部分も大きい。

 

(7)変更後の賃金水準の評価→格段高いとは評価し得ず、55歳定年延長と同列には論じられない。

 

(8)73%を組織する労働組合の合意も、不利益の程度・内容を勘案すると、大きな考慮要素ではない。

 

(9)結論
@業績給の削減分及び役職・管理職手当の不支給(専任職手当分を除く)分の請求を容認した。

 

A就業規則変更による賞与の削減分の請求を容認した。

 

2.以上により、原審判断の3〜5について破棄、原審へ差戻し。

 

差戻審の判断
1.就業規則変更の合理性の判断基準について

合理性の有無は、変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の内容自体の相当性、代償措置、関連する労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の組合又は他の従業員の対応、我が国社会の一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。

 

2.本件就業規則変更の必要性について

昭和50年代から進展した金融自由化の厳しい経営環境下において、高齢化に伴う人件費を削減し、賃金配分を是正する組織改革は10年来の懸案であって、多くの行員も同様の認識であり、本件就業規則の変更は、高度の経営上の必要性に基づくものといえる。

 

3.本件就業規則変更の合理性について

(1)専任職制度導入の合理性
事業の効率的遂行のため、企業組織を編成し、労働者を配置することは広い意味での人事権であり、組織改革の必要が認められるから、人事権の行使としてなされた就業規則の変更は、これに件う賃金の減額を除けば、格別不利益を与えず、職階・役職制度の変更には合理性が認められる。

 

(2)賃金減額の不利益の程度と賃金減額の相当性
@変更による減額幅は、経過措置がなくなる平成4年以降は、概ね40数%から50数%にも達しており、この減額幅は考課等による格差に比して格段に大きく、相当部分が本件就業規則の変更によるものと認められる。

 

Aまた、所定労働時間の短縮や職務軽減も認められず、就業規則変更による賃金面の不利益性を低く評価することはできない。

 

B労働組合と合意された代償措置のうち、退職金増額は早期退職の特例であって原告らには関係がなく、企業年金の会社負担額の増額も、賃金低下に伴う厚生年金の低下を補うものであり、代償措置とはいえず、特別融資・住宅融資は代償措置といえるものの、数10%の賃金減額を補う重要なものとは評価できない。
したがって、不利益が全体的にみて小さいとはいえない。

 

C以上によれば、第1・第2次変更により原告らが被った賃金面の不利益は極めて重大であり、就業規則変更による部分もその程度が大きいと認めざるを得ない。

 

D原告らは段階的に賃金が増加する賃金体系の下で長く就労し、60歳定年の5年前で、賃金が半額近い程度に切り下げられたもので、定年延長後の賃金抑制とは同列に論じられない。

 

E本件就業規則変更は、多数の行員について労働条件の改善を図る一方で、一部の行員の賃金を削減するものであり、企業ないし従業員全体から巨視的・長期的に見れば、その相当性を肯定できる場合もあり得るが、本件賃金体系の変更は、短期的に見れば55歳以上の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせるものであり、不利益に対する救済・緩和措置は不十分である。

 

そうすると、原告らとの関係において、賃金面の変更内容の相当性を肯定できない。

 

(3)また、不利益の程度を勘案すると、75%を組織する労働組合との合意は大きな考慮要素とならない。

 

(4)以上、専任職導入に伴う本件就業規則変更は、賃金への影響面からみて、原告ら高年層行員に対しては、専ら大きな不利益を与えるものであって、諸事情を勘案しても、変更に同意しない原告らに対し、法的に受忍させ得る高度の必要性に基づいた合理的な内容とは認められない。

 

したがって、賃金減額の効果を有する部分は、原告らに効力を及ぼすことができない。


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