労働判例〜賃金や賞与、退職金

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55歳定年を60歳に延長し、55歳以上の賞与を54歳以下の半額とする変更は認められるのか?

労働判例

定年延長に伴う賃金体系の見直しの一環として導入の必要性があり、賞与の半額支給による賃金の減少は給与総額の20%の減少に止まり、定年延長の利益に併せて合理性があるとされた事例
(平成5.3.16 青森地裁判決 A放送事件)

 

判決の要点

事件の概要

1.被告会社は定年延長の機運や労働組合の要求に応じ、定年延長を実施することとし、
@従来の賃全体系を改定し、55歳から60歳までの本給は54歳時の本給を固定し
A昭和63年4月1日以降、定年年齢を1年に1歳づつ段階的に60歳まで延長し
B55歳以上の従業員の賞与は、54歳以下の従業員の支給方式による計算額の50%とする
旨の協定書及び覚書を労働組合と取り交わし、就業規則及び給与規程を改正した。

 

2.原告は、平成元年10月13日に56歳に達し、段階的定年制の適用を受けたが、段階的定年制及び賞与の半額支給は不合理であるとして、60歳までの就労と賞与の全額の支払いを訴求した。

 

段階的定年延長の効力

1.本件協定書・覚書作成の経緯、組合の対応等を総合考慮すれば、被告会社と労働組合との間において本件段階的定年延長制導入について合意が成立したものと認められる。

 

2.労働組合としては、60歳定年制の即時完全実施が目標であったが、新賃全体系により賃金水準が向上し、また、段階的ではあっても従前の55歳定年が延長され、不満はあるものの結果的にその実施を承諾したものであり、本件覚書は本件協定を補完するものとして被告会社と労働組合との間の合意文書として作成されたものと認めるのが相当である。

 

なお、本件覚書は、合意を書面化し双方の代表者が記名押印したもので、労働協約の性質を有する。

 

そして、原告は、労働組合の組合員であったから、本件覚書の効力は原告にも及ぶものである。

 

3.我が国の一般企業及び民間放送会社において60歳定年制がほぼ完全に普及し、普遍化しているとまでは認められない現状では、60歳完全定年制が我が国社会の公の秩序(国家社会の一般的秩序)を形成しているとまで認めることはできない。

 

したがって、被告会社が採用した本件段階的定年延長制が社会的妥当性を欠き不合理なものということはできない。

 

4.そうすると、本件段階的定年延長制を定めた本件就業規則65条は、その実施された昭和63年4月の時点及び原告が56歳になった平成元年10月の時点においても、公の秩序に反して無効であったということはできない。

 

以上のとおり、被告会社と労働組合との間に合意が成立し、これに基づいて改定された本件就業規則65条は、原告が主張するような無効事由はなく有効であって、原告は56歳となった日をもって被告会社の従業員たる地位を喪失したことになる。

 

55歳以上の従業員の賞与半額条項の有効性

1.本件給与規程46条3号において、55歳以上の従業員の賞与の額は、54歳以下の従業員の支給方式によって計算された基礎支給額の50%を支給する旨規定されている(本件半額条項)。

 

2.原告は、本件半額条項のように55歳を超えた途端半額に切下げることは条理にかなわず、しかも、被告会社では従前の職種から外すことなく54歳時と同様の労務を提供させているのであり、賃金が労働の対価であることに鑑みれば、54歳と同様の賞与を受け取ることは当然であり、それを半額とする合理的理由が存在しないから、本件半額条項は無効であると主張する。

 

3.しかしながら、本件半額条項は、被告会社と労働組合との問で取り交わされた本件覚書に基づき、本件給与規程46条3号として規定されたものであり、労働条件の集合的処理を建前とする就業規則の性質からいって、当該条項が合理的なものである限り、個々の労働者は不同意を理由にその適用を拒めない。

 

4.【本件半額条項の合理性を判断する要素】
そこで、本件半額条項の合理性を検討するに、証拠によれば、(1)本件半額条項は、被告会社において、定年延長の利益と企業維持の観点から人件費の増大等に対処するため、賃金体系を見直す必要があることから、労働組合との調整と合意の下に設けられたこと

 

(2)60歳定年制を採用している民放会社であって、55歳以上の従業員の賃金と54歳時の賃金の割合及び55歳以上の従業員の賞与支給率と54歳以下の従業員の支給率が判明している43社のうち、
@55歳以上の従業員の賃金は54歳時の賃金より減少し(減少率10〜20%が多い)、また、賞与についても54歳以下の従業員に対する支給率より低い(減少率30〜40%が多い)会社は20社であり、
A55歳以上の従業員の賃金は54歳時の賃金より減少するが、賞与は54歳以下の従業員の支給率と同じである会社は1社であり、
B55歳以上の従業員の賃金は54歳時の賃金より低くはならないが、賞与については54歳以下の従業員の支給率より低い会社は6社で(10%減1社、35%減1社、50%減3社、その他1社)、
C55歳以上の従業員の賃金は54歳時の賃金より低くなることはなく、また、賞与についても54歳以下の従業員の支給率と同じである会社は16社であること

 

(3)被告会社では、55歳以上の従業員の給与は、賞与については54歳以下の従業員の支給方式によって計算された基礎支給額の50%が支給されるに止まるものの、本給は定昇・ペアがないが54歳時の本給が固定され、各種手当等は54歳以下の従業員と同様に支給されることとなっており、その結果、54歳から55歳までの1年度の月例賃金と、賞与を合んだ給与総額と定年延長後の1年度の給与総額との比率(後者の前者に対する割合)は、平成元年度の退職者9名(原告を合む)の平均では84.1%、平成3年度の退職者10名の2年分の平均では83.6%であり、また、退職金については、本給を基礎として勤続年数に通算して支給されることになっているから、定年延長に伴い退職金支給額も増加すること等の事実が認められる。

 

5.【結論:本件半額条項は合理性を有するか】
上述認定のとおり、本件半額条項は、被告会社において、本件段階的定年延長制の実施に伴い、賃金体系の見直しの一環としてこれを導入する必要があり、これにより55歳以上の従業員の賞与は54歳以下の従業員の支給方式によって計算された基礎支給額の50%の支給に止まるが、月例賃金を合わせた給与総額の減少は20%未満に止まるものである上、段階的ではあるが55歳以降も勤務を続けることが可能となり、しかも退職金支給額も増加することや被告会社以外の会社の55歳以上の従業員に対する給与の支給状況等を考慮すると、本件半額条項は合理性を有するものということができる。


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