労働判例〜賃金や賞与、退職金

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QC活動の「作業ミス報告書」提出拒否者に対する就労禁止期間は、賃金請求権が発生しないのか?

労働判例

本件提出拒否は、品質向上活動上の重要性を無視し、その目的達成に支障を来すもので、提出拒否を伴う就労申し出は、債務の本旨に従った労務提供ではなく、賃金請求は失当とされた事例
(昭和62.7.2 神戸地裁尼崎支部判決 S工業事件)

 

判決の要点

事案の経過

1.被告会社は、シヤッター部品の製造加工を業として従業員約70名を擁し、訴外A社の専属下請会社としてA社が推進するQC活動に取り組み、そのため、昭和58年頃には原告の所属するハンガードア班においても、作業ミス報告書の提出の徹底が命じられたが、原告は、些細なミスまで報告するのは精神的・時間的に負担が大きく、報告書を出してもミスはなくならないと考え、上司等に作業ミス報告書は書きたくない旨を述べた。

 

2.被告会社代表者は、原告を説得するため、昭和58年3月15日正午、原告を呼んで、QC活動の趣旨、目的と作業ミス報告書の必要性を説明し、その提出を求めたが、原告は自説を述べてその提出を拒んだので、被告会社代表者は、「それでは原告を信用して仕事を任せられない。仕事をしない人には給料を払えない。」といった。

 

原告が「解雇ですか。」と尋ねると、被告会社代表者は、「そうだ。」というやり取りがあり、担当者から冷静になるよう言われ退出したが、翌日から出社しなくなった。

 

3.その後、原告は何度か会社側と話し合い、「仕事をさせてほしい。」と申人れたが、作業ミス報告書は書かないと言い、会社側も報告書を書かない限り仕事はさせないと主張して時日が経過した。

 

指示に不服従の労務提供の本旨労働性

1.その間、原告は、「仕事をさせてほしい。」と会社側に申し出ていたことは認められるが、雇用関係において、労働者は、従業員の服務上の規律につき使用者の指揮命令に服すべき義務があり、正当な理由なしにその命令を拒否している場合には、たとえ就労の申し出をしたとしても、それは労働者としての服務規律に違反し、ひいては職場秩序を乱すものであるから、原則として債務の本旨に従った労務の提供とはいえないものと解すべきである。

 

2.ただ、労働契約の場合には、債務の本旨に従った労務の提供でないということから、直ちに使用者側において就労の申し出を拒否できるとすることは適当ではなく、その瑕疵の内容、職務遂行に及ぼす影響の程度と範囲、双方の受ける利害得失などの諸事情を検討し、使用者側が被る不利益が僅少で、不完全であるにせよ労務の提供自体はこれを受け入れても正常な業務遂行が著しく阻害されず、かつ、職場秩序の維持は、別途労務管理上の措置をもって目的を達成できる程度であれば、就労を拒否することはできないものというべきである。

 

本件「作業ミス報告書」提出拒否と就労拒否の関係

1.しかし、本件における作業ミス報告書の提出拒否は、全社的な品質管理の向上を目指す運動の一環として重要な意味を有する作業ミスの自主申告制度を否定し、それに対する協力を拒むものであり、これを放置するときは、品質管理運動の円滑な遂行を阻害し、目的達成の支障となる具体的な危険があると考えられる。

 

また、原告は、これを拒否すべき正当な理由がないばかりか、独善的な見解の下に、会社の施策に対し敵意と反感を持ち、あくまで抵抗しようとしたものであり、再三の説得に応じない頑な態度を考えれば、職場秩序の上からも無視できないものがあるといわなければならない。

 

2.したがって、原告が作業ミス報告書の提出を拒否する態度を変えないまま、仕事だけはさせてほしいと申し出たとしても、それは債務の本旨に従った労務の提供と言えないばかりでなく、その瑕疵は決して軽微なものではなく、被告会社としては受忍すべからざるものというべきであるから、その就労の申し出を拒否することは正当であり、被告会社の責に帰すべき事由による就労不能にはならない。

 

3.そうすると、同年3月16日から同年5月24日までの問、原告が就労しなかった以上、原告は賃金請求権を有するものではないから、当該期間についての原告の賃金請求は失当である。


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