労働判例〜賃金や賞与、退職金

スポンサードリンク



「円満退職を支給条件」とする規定は、どのように解すべきか?

労働判例

給与規程に定める退職金支給要件である「円満退職」について、懲戒解雇事由が存在し、長期の勤続功労の抹消に値する不信行為が存在する場合以外は、「円満退職」に当たるとされた事例
(平成13.10.30 東京地裁判決 K特許事務所事件)

 

判決の要点

本件給与規程の定める退職金の性質

1.給与規程17条及び18条は退職金の支給条件を明確に規定しており、被告と原告との労働契約の内容として、被告が支払義務を負う労働基準法11条の「労働の対質」としての賃金に該当するものというべきである。

 

2.この点に関して、被告事務所は、給与規程17条1項はその規定の仕方からあくまでも「円満退職」を退職金支給の要件としていることを強調するが、規定の文言上、「円満退職の場合には退職金を支給する」という規定の仕方をするか、「円満退職でない場合には退職金を支給しない」という規定の仕方をするかによって、当該退職金の性質が異なってくるものとは解されない。

 

3.また、弁理士厚生年金基金への加入に伴い、職員が支給を受ける退職金額から同年金基金より職員に直接支払われる一時金相当額を控除した額を支払うこととされたが、同年金基金からの支鉛分については「円満退職」を支給要件とはしない扱いとしていることからしても、本件給与規程に基づく退職金を「円満退職」に該当する場合にのみ支給する意志的なものとは到底認め難く、その具体的な権利性を否定することはできない。

 

給与規程に定める「円満退職」の意味

1.上述のとおり本件給与規程に基づく退職金は、労働基準法11条所定の「賃金」に該当するというべきであり、被告事務所が給与規程17条1項の「円満退職」であると認めた場合に限り、退職金を支給する義務を負うに過ぎないとの主張は理由がない。

 

2.そうすると、本件退職金が賃金の後払いとしての性質を有することを前提とすれば、上述の「円満退職」とは、退職する職員に懲戒解雇事由が存在するなど、職員の長期勤続の功労を抹消してもやむを得ない程の不信行為が存在する場合以外をいうものと解すべきである。

 

3.被告は、「円満退職」とは、退職に当たり、被告事務所や同僚から受けていた信頼関係を裏切らないよう十分な配慮がなされ、被告と退職職員の双方が納得の上で退職した場合をいうものであり、その地位や職務内容において重要な役割を担っていた場合には、適切な後任者を探して養成し、必要な業務引継を行い得る体制を整え、業務引継を完了して退職するのでなければ「円満退職」とは評価できない旨主張している。

 

しかし、被告の解釈は、本件退職金が労働基準法所定の賃金に該当するとの判断を前提としては採用できないものである。

 

また、この点を置くとしても、被告の解釈は、重要な役割を担って努力して功績が大きい者ほど退職の自由を事務所内部の事情によって事実上奪う結果を招く不合理な解釈であるといわざるを得ない。

 

4.被告は、就業規則28条1頂で「少なくとも14日前に」退職願を提出することによる自己部合退職を認めており、さらに給与規程18条2項で、自己都合退職者の退職金を事務所都合退職者の退職金額の半額と大幅に削減し、さらに「円満退職」に関して退職の自由を事実上制限する上述の解釈を採用することは、労働契約の内容となっている就業規則の合理的な解釈としては、到底採用できない。

 

5.被告は、本件訴訟において懲戒解雇事由の存在を主張する意思のないことを明らかにしているが、いずれにしても、被告提出の証拠をもってしては、原告らに懲戒解雇事由が存在するなど長期勤続の功労の抹消もやむを得ない程の背信行為の存在は認められない。

 

この点に関して被告は、事務所において相当でない時期に退職の申入れをし、後任への引継を十分にしないまま退職をしながら、さらに退職金を請求することは許されないと主張するようであるが、原告らは、就業規則の規定に従って退職手続をしており、原告らが退職願を提出した時期が事務所における業務の混乱していた時期に当たっていたとしても、それは被告側の事情であり、そうした事態を招いた責任が原告らにあるとは認め難いものであるから、これを理由に退職金の支給を拒むことは許されない。


スポンサードリンク

「円満退職を支給条件」とする規定は、どのように解すべきか?

従業員に対する企業の懲戒権は、何を根拠に認められるのか?
従業員に対する企業の懲戒権は、何を根拠に認められるのか?
懲戒権の行使は、どのようになされるべきか?
退職金を不支給ないし減額することが認められる懲戒解雇事由とは、どのような事由なのか?
退職金を不支給ないし減額することが認められる懲戒解雇事由とは、どのような事由か?
退職金の不支給・減額規定には、どの程度の明確性が要求されるのか?
懲戒解雇時に退職金不支給規定が存在しなくても、退職金を不支給にできるのか?
退職金不支給規定が、懲戒解雇時に周知されていない場合でも、不支給規定を適用できるのか?
懲戒解雇者に退職金を不支給とする規定は有効か?不支給規定がなくても不支給にできるのか?
「懲戒解雇者」を不支給対象と定めている場合には、自己退職者の請求を拒めるのか?
「懲戒解雇者」を不支給対象と定めている場合には、自己退職者の請求を拒めるのか?
自己退職者に対して、「懲戒解雇事由のある者」の不支給規定を適用した事例はあるのか?
退職の成立後に、懲戒解雇を理由に退職金を不支給にできるのか?
退職の成立後に、懲戒解雇を理由に退職金を不支給にできるのか?
自己退職の成立後に、懲戒解雇を理由に退職金を不支給にできるのか?
重大な背信行為の発覚前に自己退職した場合には、退職金の請求を拒めるのか?
重大な背信行為の発覚前に自己退職した場合には、退職金の請求を拒めるのか?
金銭領得行為に隠蔽工作を施して自己退職した場合には、退職金の請求を拒めるのか?
退職金を支給済であっても、退職金不支給事由に該当する場合には、返還請求ができるのか?
「円満退職を支給条件」とする規定は、どのように解すべきか?
「円満退職条項」違反があった場合でも、退職金請求権が認められた事例があるのか?
就業規則の退職届提出規定に反した場合には、退職金請求権は認められないのか?