労働判例〜賃金や賞与、退職金

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懲戒解雇者に退職金を不支給とする規定は有効か?不支給規定がなくても不支給にできるのか?

労働判例

懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする付款は一般的に不合理ではないが、就業規則や労働契約にその旨の附款はなく、事実たる慣習の成立もないから、退職金支払を拒めないとされた事例
(平成11.2.23 東京地裁判決 東北T協同組合事件)

 

判決の要点

退職届提出と懲戒解雇の意思表示

原告らは、平成9年8月21日、被告組合に対し一身上の都合により、同年9月20日をもって退職する旨の退職届を提出した。

 

被告組合は9月2日付けで、原告らに対し同年8月21日をもって原告らを懲戒解雇する旨の意思表示をし、その意思表示が原告H及び同Kに到達しだのは同年9月3日であり、原告S及び同Fに到達したのは同月4日である。

 

本件退職金の法的性質

1.退職金は、継続的な雇用関係の終了を原因として労働者に支給される一時金であるが、その法的性質については、退職金の支給条件が法令、労働協約、就業規則、労働契約などで明確に規定され、使用者がその支払義務を負担するものであるときは、退職金は労働基準法11条にいう「労働の対償」としての賃金に該当するものと解するのが相当である(最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決)。

 

2.本件においては、就業規則25条は、従業員の賃金については別に定めると規定し、この規定を受けた本件給与規程28条は、従業員が退職したときは同規程29条による退職給与金を支給すると規定し、同条は退職給与金の支給条件を規定していることに照らせば、本件退職金はその支給条件が就業規則で明確に規定されていて、被告組合がその支払義務を負担しているというべきであり、労働基準法11条所定の賃金に当たると解され、そうすると、この退職金は賃金後払いの性質を有するということになる。

 

懲戒解雇者には退職金を支給しないとする付款の当否

1.被告組合は、懲戒解雇事由により解雇された従業員には退職金を支給しない慣行が確立しており、そのことは原告らも承知しているから、退職金を支給する義務はないと主張している。

 

この主張は、被告組合の退職金支給には、支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという付款が設けられており、そのような付款が設定されているとする根拠は、被告組合における確立された慣行又は原告らとの合意であるというものであるから、

 

@退職金の支給条件にそのような付款を設けることが、許されるかどうか、

 

A許されるとして、被告組合の退職金の支給にそのような付款が設けられているかどうか、

 

を検討する必要がある。

 

2.先ず、@の退職金の支給条件に、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという付款を設けることが許されるかどうか、についてである。

 

そもそも使用者には退職金の支払義務はないから、労働契約に反しない限り、その支給条件をどのように定めることも自由であると考えられること、一般に退職金には賃金の後払いの性質だけでなく、功労報償の性質もあることは否定し難いことに鑑みれば、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が、一般的に不合理なものとして効力を有しないということはできない。

 

そして、本件において、退職金の支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという付款を設けることが、原告らと被告組合との間の労働契約に反するとまでいうことはできないのであって、退職金の支給条件として懲戒解雇された従業員には、退職金を支給しないという内容の付款を設けることも許されるというべきである。

 

3.次に、本件退職金の支給条件に、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が設けられていると認められるか否かであるが、退職金の支給について労働基準法15条1項、89条1項、同法施行規則5条1頂が、退職金の定めをするときはそれに関する事項を労働契約の際に明示し、所定の手続によって就業規則に規定しておかなければならないとしている。

 

したがって、被告組合の退職金支給について、支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けるのであれば、その内容をあらかじめ就業規則に定めておくべきであるが、仮に定めてなかったとしても、個々の労働契約において、そのような付款を設けることを合意することは当然に許されるものと解される。

 

また、就業規則に定めてなくても、そのような付款の存在を前提に退職金支給に当たっては、そのような付款が適用されるという事実たる慣習が成立していると認められる場合には、退職金の支給条件としてそのような付款が設けられていることを認めることができる。

 

4.そこで、本件についてこれをみると、次のとおり認められる。

 

(1)退職金の支給を定めた本件給与規程には、退職金の支給条件として、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款は設けられていない。

 

(2)原告Hは、かつて横領などで懲戒解雇された従業員に、退職金が支払われなかったことを是認する趣旨の供述をしているが、同人は、横領などの行為によって被告組合に財産的損害が発生し、これを填補するため退職金を充てるとすれば、いちいち退職金を支給する必要はないと考えて上述の供述をしたものとも考えられ、上述の供述から直ちに原告らと被告組合との間の労働契約において、退職金の支給条件に、懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款を設けることに合意したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 

(3)そして、被告組合が懲戒解雇した従業員に退職金を支給しなかった例が認められるが、それは、当該従業員が退職金の不支給について、被告組合に何ら異議を述べなかったことを意味するものと考えられ、この異議を述べなかったということは、懲戒解雇の原因とされた横領などで被告組合に財産的損害が発生し、その填補に退職金を充てるとすれば、いちいち退職金の支給を求めるまでもないと考えたことによるものとも考えられる。

 

そうであるとすると、退職金不支給の例があるだけでは、就業規則において懲戒解雇された従業員には退職金を不支給とする付款を設けていなくても、そのような付款の存在を前提に、当該付款が適用されるという事実たる慣習が成立していることを認めるに足りる証拠はない。

 

5.そうすると、被告組合による退職金の支給について、支給条件として懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという内容の付款が設けられていると認めることはできない。

 

以上によれば、原告らが懲戒解雇されたからといって、被告組合はそのことを理由に本件退職金の支払を拒否することはできない。


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