労働判例〜賃金や賞与、退職金

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退職金を支給済であっても、退職金不支給事由に該当する場合には、返還請求ができるのか?

労働判例

退職理由を秘匿して同業他社に就職した行為が退職金不支給事由に該当するとして、受領済の退職金全額につき不当利得として、返還請求が認められた事例
(昭和62.6.19 福井地裁判決 F新聞社事件)

 

判決の要点

被告労働者への退職一時金の支給と原告会社の支払請求

1.原告会社は、被告労働者Fの「家事の都合」、同Sの「一身上の都合」等を理由とする退職申し出を承認し、退職一時金規定に基づき、被告Fに対し昭和51年7月28日、退職一時金449万8,000円を、被告Sに対し同年9月30日、退職一時金376万7,500円をそれぞれ支給した。

 

2.原告会社は、被告労働者らが他の退職者と共謀して、原告会社の企業破壊の意図を秘して退職し、同種営業を目的とする日刊Fの幹部となり、他の従業員を計画的・大量に引き扱いて原告会社を倒産寸前の経営危機の状態に至らしめたもので、その行為は、退職一時金の不支給を定めた退職一時金規定3号(「社の都合をかえりみず退職し、会社の業務に著しく障害を与えたとき」本件不支給規定)に該当し、被告労働者らは、本来、退職一時金の支給を受ける資格がないものであったとして、被告労働者らに対して支給済の退職一時金の全額及び遅延損害金の支払を求めた。

 

退職一時金不支給に関する規定の変遷

1.原告会社には、当初、同業他社へ就職する目的で従業員が退職した場合に退職一時金を不支給とする旨の規定は存在しなかった。

 

昭和27年春頃、原告会社を退職した元代表取締役が「新F新聞」の発行を試み、従業員17名を引き抜くという事態が生じたが、上述の規定がなかったため、これらの者に対して退職一時金を支給せざるを得なかった。

 

2.そこで、昭和28年1月1日、退職金の一部不支給の場合として、就業規則中の退職金規定に「会社の利害に大きな関係のある他の会社(又はこれに類する法人)へ最終的に就職する目的をもって退職するとき」との規定、すなわち、従業員に競業避止義務を課す規定が新設された。

 

3.そして、旧規定は昭和38年4月、本件不支給規定に改正され、更に前記大量退職の最中の昭和51年11月9日、「福井県において当社と競争関係にある同業他社へ就職するため退職したとき、又は同業他社の引抜きに応じ退職したとき」は退職一時金を支給しないとする5号(新規定)が退職一時金規定第3集中に追加された。

 

なお、同日、福井労働基準監督署長宛に提出された新規定追加による就業規則の一部改正届には、当該改正は従来の団体交渉の中で確認してきたものと相違がないので同意する旨の労働組合の意見及び同意書が添付されていた。

 

本件退職一時金不支給規定の解釈

上述退職一時金不支給規定の変遷の経緯及び労働組合の上述同意に加えて、被告労働者ら及びYら4名の退職者が、終始、真実の退職理由を秘していたのは前記認定のとおりであり、これは被告労働者ら及びYら4名の退職者自身が日刊Fへ就職する目的の退職に対しては、退職一時金が支給されないおそれがあることを認識していたためであると解されること等を総合すれば、本件不支給規定は、旧規定及び新規定のように文理上必ずしも明確に競業避止義務をうたったものではないが、原告会社の企業防衛のための規定であって、従業員が同業
他社に就職することによって、業務に著しい障害を与えるような場合をも想定した規定であり、また、新規定は、本件不支給規定の内容を注意的に具体化したものと解するのが相当である。

 

被告労働者らの退職の退職一時金不支給規定の該当性

そして、被告労働者らが、福井県の新聞業界を取り巻く厳しい状況を認識しつつ、新たに設立され、加えて、原告会社の従業員を大量に引き抜くことが計画されていた同業他社である日刊Fの事業に参画するため原告会社を退職し、その計画が実行された結果、原告会社の平常の新聞発行業務にも支障を来したことは認定のとおりであり、このような退職は、上述認定の本件不支給規定の趣旨に照らすと、正に、上述規定に該当するというべきである。

 

不支給規定該当による受領済一時金の不当利得とその返還支払義務

1.以上のように、被告労働者らの退職は、本件不支給規定に該当し、被告労働者らは本来退職一時金の支給を受ける地位になかったものであるにもかかわらず、真の退職理由を秘して、それぞれ退職一時金の支給を受け、原告会社に当該各一時金相当額の損失を与え、これを不当に利得したものといわざるを得ない。

 

2.以上の次第で、被告Fは449万8,000円、被告Sは376万7,500円及び訴状送達の日の翌日(被告Fは昭和54年6月21日、同Sは同月22田から支払済みまで、民法所定の年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務がある。


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