労働判例〜賃金や賞与、退職金

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賞与の支給日直前に嘱託期間満了となった場合には、支給日在職規定により不支給になるのか?

労働判例

支給日の4日前に嘱託期間が満了した場合について、受給権の取得につき、支給日在籍を要件とする慣行は不合理ではなく、当該労働者の認識にかかわらず、事実たる慣習として有効とされた事例
(昭和59.11.28 大阪高裁判決 K新聞社控訴事件)
(昭和60.11.28 最高裁第一小法廷判決 K新聞社上告事件)

 

判決の要点

原告労働者の嘱託期間満了による退職の事情

1.原告労働者が被告会社の嘱託として勤務し、昭和56年11月30日付けで嘱託期間満了により退職したこと、被告会社が嘱託手当の3.06ヶ月の賞与を同年12月4日に支給する旨決定し、原告に賞与が支給されるとすれば106万円余となること、原告が年末賞与の計算期間に在籍していたごとは当事者間に争いがない。

 

2.就業規則46条は、
 @毎年夏季及び年末に賞与を支給する

 

 A賞与の金額・配分方法はその都度決める

 

 B支給期は原則として夏季は6月、年末は12月とし、計算期間は、夏季は前年10月1日から当年3月31日まで、年末は当年4月1日から9月30日までとする
 旨定めている。

 

3.原告は、昭和42年(45歳頃)被告会社に嘱託として入社し、同50年に社員登用により正規従業員となり、同53年11月30日57歳で定年退職し、引続き嘱託として勤務し、同56年11月60歳に達したので、同月末日をもって嘱託期間が満了し、退職することとなった。

 

計算期間の在籍により支給日不在籍でも賞与の請求権があるとする原告の主張就業規則46条の賞与の支給につき、原告は、賞与の労働の対慣たる賃金であって、生活補給金的、賃金後払い的性格を有するから、計算期間に在籍していれば支給日に在籍していなくても支給対象となる旨主張し、被告会社はこれを争い、賞与は労働の対価性よりも報償性、利益配分性が顕著であり、同条は支給日に在籍している従業員に支給すべきことを定めたもので、かつこの解釈に基づく取扱いが労使慣行であると主張する。

 

本件賞与の法的性質及び支給日在籍慣行の有効性

1.被告会社が、賞与計算期間に在籍しても支給日に在籍しない者に対しては賞与を支給しない取扱いを長年続けてきたこと、ただし、死亡退職と正規従業員の定年退職を例外的措置として賞与を支給してきたことは、当事者間に争いがない。

 

2.原告が当初嘱託として採用された昭和42年以前から就業規則46条の定めがあり、被告会社は当該規定を

 

 @「賞与の支給は支給日当日に在籍する従業員」に限定したものと解釈し、この取扱いを続けてきたこと、

 

 A昭和53年3月から同56年12月までの期間満了により退職した嘱託69名は、例外なく、計算期間に在籍しながら、退職後に支給日が到来した賞与を受給しておらず、

 

 B原告を除いて、賞与の不支給につき問合わせが1〜2回程度あっただけで苦情はなく、

 

 C嘱託も加入資格のある労働組合からも苦情の申入れはなかったことが認められ、さらに、被告会社は、従来からの実務処理を明文化するために昭和57年になって、

 

 D就業規則46条の「従業員」が「支給日当日に在籍する者及び前期支給月の翌月以降の定年退職者並びに死亡退職者」であることを明らかにするとともに、嘱託規程7条による就業規則46条の準用が、

 

 E「支給日当日に在籍する者及び前期支給月の翌月以降の死亡退職者」に限ることを明らかにすることを合む規則等の改正を行ったが、

 

 F労働組合はこの改定に意見書をもって異議ないことを表明したこと、

 

 以上を認めることができる。

 

3.以上、前各項の事実を総合して判断すると、(中略)本件賞与の性格は功労報償的というよりも生活補給金的色彩が強いといえるけれども、同時に利益配分的ともいえ、その内容が計算期間以前に定められていない点において、労務提供に対する本来的請求権の内容となる通常賃金と顕著に異なることを否定できない。

 

しかも、嘱託一般につき、嘱託期間満了後に支給日が到来する場合には支給されないという慣行が長年平穏裡に継続され、労働組合もそれを是認し、原告も在職中そのことを知り得たのみならず、原告の場合正規従業員の定年退職後に嘱託再雇用されたのであるから、57歳の定年が事実上60歳まで延長されたのと同様の結果を生じているといっても、定年制の雇用契約と異なり、契約期間が1年であり、賃金体系も著しく低い点において、嘱託は正規の従業員とは労働条件が本質的に相違することは否めないのである。

 

4.以上の事実関係の下においては、少なくとも再雇用嘱託に支給される賞与は、労使間において純粋に労働の対象と意識されていたものとは認め難く、本件賞与は労働基準法11条、24条が全面的に適用される賃金と解することはできない。

 

したがって、嘱託に対する賞与支給についての長年の前記慣行にかかわらず、原告が賞与計算期間中労務に服したことにより当然に賞与請求権を取得し、支給額、支給日の確定により具体的請求権が発生したとする原告の主張は採用することができない。

 

嘱託期間満了と定年退職との類似性による取扱い差異の公序良俗違反の有無

1.原告は、就業規則46条の「従業員」は計算期間に在籍しておればよいと解すべきであり、嘱託期間満了と正規従業員の定年とは自己の意思によらないで雇用関係が終了する点で一致するから、その取扱いの差異を設ける慣行には合理性がないと主張する。

 

2.本件賞与が、純粋に労働基準法11条に規定する労働の対慣たる賃金であるとするならば、就業規則の定め、労使慣行の存在、その他如何なる理由の下にせよ、労務を提供した労働者にその支給をしないことは、同法24条の賃金全額支払義務の規定に違反し許されないことはいうまでもない。

 

しかし、本件賞与が上述の意昧での賃金に当たらないことは既に前項で判断したとおりであり、死亡退職の場合を除き、計算期間に在籍しても賞与支給日に在籍しない嘱託には賞与を支給しない旨の確立された労使慣行が存在したということができる。

 

そしてこの場合、当該慣行が強行法規に抵触し、又は公序良俗に反するか、著しい不合理性が認められる等のことのない限り、これに事実たる慣習としての効力を認めるのが相当である。

 

3.就業規則46条の「従業員」については、計算期間に在籍しなければ受給権を有しないのは当然としても、同条項の文言から直ちに、支給日在籍者に限定する趣旨と解することはできないし、述に計算期間在籍すれば支給日に在籍しない者も合む趣旨と解することもできない。

 

すなわち、これを一義的に解釈することは適当ではなく、その解釈運用は、他に定めがない以上、労使慣行に委ねたものと解するのが相当である。

 

4.次に、原告主張の被告会社の取扱いの不合理性につき判断する。

 

再雇用嘱託が60歳となり、期間満了で退職することが定年退職と類似するといっても、労働条件が本質的に相違する正規従業員の定年退職と同日に論ずることはできず、前記労使慣行を著しく不合理であるということはできない。

 

他に当該慣行に従うことが違法であることを認めるに足りる証拠はない。

 

【上告審の判決(昭和60.11.28 最高裁第一小法廷判決)の結論部分の要旨】

 

賞与の支給日在籍慣行の事実たる慣習としての効力
賞与の受給権の取得につき、当該支給日に在籍することを要件とする前記慣行は、その内容において不合理なものということはできず、原告がその存在を認識してこれに従う意思を有していたかどうかにかかわらず、事実たる慣習として原告に対しても効力を有するから、前記の事実関係の下においては、原告は、嘱託期間の満了により被告会社を退職した後である昭和56年12月4日を支給日とする賞与については、受給権を有しないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。
(裁判官全員一致)


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