労働判例〜賃金や賞与、退職金

スポンサードリンク



顧客からの集金代金の忘失分を賃金から控除することは、合意があれば有効と認められるのか?

労働判例案内人

当該忘失金は、労働者に損害賠償責任があり、即時の弁済を要し、小額で経済生活を脅かさず、完全な自由意思による合意と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存し、相殺は有効とされた事例
(昭和56.3.12 大阪地裁判決 中華料理店「W」事件)

 

判決の要点

 

集金欠損分の賃金からの控除

原告は、昭和54年6月頃、被告料理店の顧客から集金した代金のうち1,000円を紛失し、また、同じく同年10月に集金した代金のうち850円を紛失し、これら各金員を被告料理店に入金できなくなったので、被告料理店は、原告と合意のうえで、原告に支払うべき6月分の賃金6万3,800円の中から、当該1,000円を、同じく同年10月に支払うべき賃金10万580円の中から850円を、それぞれ差し引いたこと(合意による相殺)が認められる。

 

集金の紛失欠損の損害賠償責任

そして、原告が、被告料理店の顧客から集金した金員のうち1,850円を紛失したことについて、他に特段の主張立証のない本件では、少なくとも原告に過失があるものと推定すべきであり、原告には、被告料理店に対し、当該1,850円について、債務不履行ないし不法行為による損害賠償責任があったというべきである。

 

労働基準法24条1項の趣旨と合意に基づく相殺の有効性

1.労働基準法24条1項本文は、いわゆる賃金の全額払いの原則を定めており、賃金の一部控除を禁止しているから、特段の事情のない限り、使用者が、労働者に対して有している反対債権をもって労働者の賃金債権を一方的に相殺して決済することは許されないと解すべきである(最高裁昭和31年11月2日第二小法廷判決、最高裁昭和36年5月31日大法廷判決)。

 

2.しかしながら、賃金全額払いの趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにして、その保護を図ろうとするものであるから、賃金債権と使用者が労働者に対して有する債権とを、労使間の合意によって相殺することは、それが労働者の完全な自由意思によるものであり、かつ、そう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、全額払いの原則によって禁止されるものではなく、有効と解するのが相当である(最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決、東京地裁昭和47年1月27日判決)。

 

3.そして、本件においては、前記のとおり被告料理店は、原告の同意を得て、原告の賃金債権と集金の忘失未納による賠償責任とを相殺(差引計算)したものであるが、先に認定したところから明らかなとおり、当該相殺に併された1,850円は、原告が即座に弁済すべき性質のものであること、その額も合計1,850円であって、原告の給料に比し極めて小額であり、原告の経済生活を脅かすおそれは全くないことや、証言などを考え併せると、原告の当該相殺に対する同意(相殺することの意思表示)は完全な自由意思によるものと認められ、かつ、そう認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していたと認めるのが相当であるから、当該相殺は有効というべきであり、原告には、相殺された1,850円の賃金の支払請求権もないというべきである。


スポンサードリンク

顧客からの集金代金の忘失分を賃金から控除することは、合意があれば有効と認められるのか?

社用車の事故損害額を賃金から相殺決済しても差し支えないのか?
営業妨害行為に基づく損害賠償債権と退職金との相殺は有効と認められるのか?